死ぬかと思った日の話 燃料ドンドン減ってくやん

航空関連ニュース深堀記事

はじめに

普通この仕事していても死ぬかと思う事はほとんどありません。

シュミレーターで各種系統の不具合は沢山トレーニングしますが、実際の運航してて発生する不具合はマイナーなモノばかりです。

先日トムヤム君とのフライトで久々?初めて?死ぬかと思った出来事がありましたので、記事にします。

太平洋を跨ぐ運航で特に嫌なのが、まず火災や煙に関する緊急事態です

一般的に火災や煙に関する過去の事例では発生から15分を境に死亡事故に繋がる可能性が一気に高くなります。

太平洋で飛んでて15分以内に着陸できる場所はほんの一部ですから、もう火災などが発生したら消さなければ、消えなければほぼ『お陀仏』という事になります。

もう一個嫌なのがエンジンや燃料関係の不具合です

近年航空機エンジンの信頼性が高まってきてジャンボジェットの様に4発のエンジンがなくても地球上のかなりの部分を飛んで良い事になってきています。

とは言え、太平洋上でエンジンを一個失うとBoing777の様な2発エンジンの飛行機は残るエンジンが一つだけになります。このエンジンが止まると大きくて重い滑空比が良く無いグライダーになるワケです。

そして先日起こったのは燃料に関する不具合でした

太平洋のややアメリカ寄り位の位置で『左右のメインタンクの残量にインバランス発生』とのメッセージが表示されました。

『どんだけ~~?』と思ってタンク残量のページを表示させると、左のタンク残量が一定量づつドンドン、いやっ結構な割合で減って行っていました。

もうこれはマイナーなトラブルではありません。完全にシュミレーターで訓練するヤバい部類の不具合です。

(※訓練でやっているのですぐ思いつくのは、タンクに穴か何かが空いて燃料がビュヒャーと放出され続けているか、エンジン内部燃料パイプ損傷などのとにかくエンジン止めるまで燃料駄々洩れ続くやつです。)

ドンドン減っていくタンク残量を見て、トムヤム君が言った一言目が『これ先月訓練でやった奴だ!』でした。(※後で二人で笑いましたが)

以後僕らがやったことをだいたい時系列で書きます

全てが滞りなく出来たワケではありませんが、概ねこんな感じでした。

①表示された不具合のメッセージ自体はすぐさまメモリーでの手順を要求するものではなかったので、まず状況の把握に努めました。

②具体的にはエンジンの燃料流量を確認しました。左右の流量がほぼ同じままでした。
※これだけ見るとエンジンはノーマルでタンクからの駄々洩れが怪しくなります。

③燃料漏れ関係は各タンクの残量を一定時間でメモし続ける事で原因箇所特定の助けになる可能性があるので、ストップウォッチを作動させて左右メインタンクとセンタータンクの残量のメモを開始しました。

僕の汚いメモ

④Boing777は二種類の残燃料を常に表示してくれています。
一つは『各タンクの燃料を足し算した値』、もう一つは出『発時の総燃料量からエンジンで消費した燃料の総和を引き算した値』です。この二種類の値は通常ほぼ同じ値になりますし、この値を飛行計画書には『この辺飛んでる時は残燃料はこれ位あるはず的な値』が書いてありますから、パイロットはこの三つの値にズレが出ていない事を確認しながら飛んでいます。
この日は『各タンクの燃料を足し算した値』のみがドンドン減っている状態でした。

⑤このまま減り続けるともっとヤバい警告的メッセージが出て『緊急事態』を宣言して、、、にシュミレーターではなります。緊急着陸する為の空港の最新のお天気を機上のコンピューターからリクエストして、その空港のチャートも準備しました。

⑥それから3人運航でしたので、休憩中で仮眠しているパイロットも呼びました。

※こういう時に限って全然連絡取れないので、急遽CAさんに連絡して叩き起こしてもらおうと思ったら、CAさんとも美味く連絡が取れない(笑)両方から呼び合ったりするとこうなる。しょうがないからトムヤム君に直接仮眠室に呼びに行ってもらいました。

⑦するとトムヤム君が離席している間に残燃料の値がミルミル増え始めました。そしてトムヤム君が戻った時には完全に通常値に戻り、各種メッセージも完全に消えていました。

結果的には燃料表示システムの不具合でした。最初にメッセージが表示された瞬間から全てのパイロットは『ただの誤表示であってくれ』と心の奥で叫びながら原因の特定を続けるので、表示が戻る事に驚きはありませんでした。ただ無茶苦茶に安堵しました。

⑧そのあと当該チェックリストと燃料漏れのチェックリストをリビューして、他に考えることはないか?をディスカッションしました。

⑨もし誤表示じゃなくて、本当に漏れててエンジンはノーマルだった場合は少なくともエンジン一発は生き残るし、燃料も残るので心細いが近隣飛行場には到達できる事も話したりした。

⑩ココまでで心臓バクバクステージは終了しました。日々の整備状況が記録されているフライトログブックを取り出して、最近の不具合や処置の記録をチェックしました。

⑪あんな大事な瞬間に『これ最近シュミレーターでやりました』ってなんやねん?ってトムヤム君をイジリました。

⑫気づくと自分の指が異常に冷たくなっていました。多分軽い興奮&ショック状態の影響だと思います。『俺はなんてチキンなんだ!俺をチキンと呼んでくれ!ちょっと待ってお腹空いたからCAさんにご飯頼むわ!プるるる、もしもしチキンライスある?』で、少しウケた。

いやー自分はいつも冷静ってワケではないけど、動じない性格だと思っていたので正直ショックで恥ずかしい!

⑬トムヤム君が『月が出てる側のタンクの不具合だから、ダブルチェックの意味でCAさんんい見てもらうのどう?』って言いだしました。

正直リアル緊急事態でないので、すぐに『いやっCAさんビックリするかもしれないから、自分たちで直接コソッとチェックしに行こう』って言おうと思たけど、コレは『NO』的なメッセージになるし、燃料漏れの連想ゲームとして目視って本当に真っ当な考えたなので、

『月が出てるから目視が有効的って凄いね!!レジェンドって呼んでいいか?』ってチョイと持ち上げた後に、ふと今気づいた風に『あれっでもCAさんに頼むとCAさん自身が心配しちゃうといけないからトムヤム君コソッと見てきてくれない?』ってCRM的テクニックを駆使してみました。

⑭トムヤム君が何もないコトを確認して帰ってきてから、着陸後フライトログブックに書き込む英文を下書きしました。

⑮ホテルの朝食で出たミカンを持ってきていたので、僕が食べ始めるとトムヤム君が『それってホテルのだよね?!それイイよね 種が無くって、、』言うから、『美味しいとかじゃなくて、種が無いとこか!』とツッコミたかったけど、ちょっとマッタリしたかったので生返事しといた。

⑯次にこれまたホテルから持ってきたバナナを食べた。さっき生返事だけしかしておらず、ちょっと悪いなぁ~と思っていたので、『このバナナもイイよ、種が無くって、、』言うたら、トムヤム君に生返事を返された。

⑰バナナを食べ終わったら、CAさんがチキンライスを持ってきてくれて『どっちが頼んだの?』みたいな顔してくれたので、ここだと思って手を挙げて『I AM CHIKEN』 と言ってチョット加点しといた(笑)

最後に

今回の事例は結果的には何でも無かったが、マジでビビった。

結果的に何もないレベルの不具合でこんなにビビる内容があるのか『こっわ!』と思った。
※マジな緊急事態には僕はチビッてるかもしれない!

パイロットには『一度、社に戻って検討します』が無い。

いろんなリスクが降りかかって来た時に、即座に対応しなければイケない内容ばかりで、それはほとんどバスケや野球などの敵のいるスポーツと同じなんです。
そこが難しいし、そこが面白い(後から考えると、、)
そんな厳しい状況で頼りになるのは、自分自身とクルーしかいないんだなぁ~と改めて強く強―く感じさせられました。
そして、もし数年後に再びトムヤム君と一緒に飛ぶ事になったら『あの時ビビったよなぁ~』から入っていけるのも、この仕事のイイ所かなぁ~と思いました。

後日トムヤム君からメール来た

前回の記事『コロナ禍のタイの痛い航空業界事情 パイロット受難!もう微笑んでいられない!』でトムヤム君と喋っていた台湾の美味しいタイ料理屋をメールで教えてくれた。今度行ってくるわ!

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